|
目次:
※ご覧になる項目を上の目次よりお選び下さい。
|
“ピロリ菌のはなし”
|
| 今月の豆知識は、ピロリ菌についてお話いたします。 |
ピロリ菌は人間の胃の中に住んでいる細菌で、正式には「ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)」といいます。近年、ピロリ菌が消化性潰瘍(しょうかせいかいよう)の原因の一つとして考えられるようになってきました。皆さんの中にも、胃が痛くて病院を受診したところ、「念のためピロリ菌の検査をしてみましょう」といわれたことがある方がいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、消化性潰瘍・ピロリ菌・ピロリ菌の診断と除菌治療についてご説明いたします。 |
|
消化性潰瘍とは、胃・十二指腸潰瘍の総称で、食物を消化する胃液により胃や十二指腸の粘膜が傷つけられてできるものです。近年、消化性潰瘍の多くはピロリ菌感染が原因であるといわれており、実際に胃潰瘍患者の70〜80%、十二指腸潰瘍患者では90%以上でピロリ菌の感染が見られたとの報告があります。このことから、ピロリ菌は消化性潰瘍の発症や再発に深く関係していると考えられ、様々な研究がなされています。
ピロリ菌感染は、消化性潰瘍以外にも、慢性胃炎・胃ガンを引き起こす原因と考えられています。また最近では、慢性蕁麻疹(まんせいじんましん)などの皮膚疾患や、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)といった、消化管以外の疾患との関わりについても注目されています。
まず、ピロリ菌と深い関わりのある消化性潰瘍についてお話しします。
|
|
|
| 胃の役割と胃液については、処方せん豆知識第61号「胃食道逆流症の話し」をご覧ください。 |
胃・十二指腸の粘膜組織は右に示したような層状の構造をしています。胃液中の胃酸とペプシンは、本来食物を消化するために働いていますが、過剰になると胃や十二指腸の粘膜組織まで傷つけてしまうことがあります。 |
胃・十二指腸粘膜組織と潰瘍
|
できた傷の深さにより、表面の粘膜層だけの損傷は「びらん」、粘膜下層より深い組織の損傷は「潰瘍」と分類されています。よく言われる“胃が荒れている”という状態は、「潰瘍」ではなく「びらん」を指しています。
|
代表的な自覚症状は“みぞおちの痛み”です。痛みの程度と潰瘍の重症度は必ずしも一致していませんが、心窩部(しんかぶ:みぞおち)から上腹部(おなかのへそより上の部分)を中心とした鈍痛(重苦しい痛み)や圧痛(押さえつけられるような痛み)を感じる場合が多いようです。以下に、消化性潰瘍の特徴的な症状をまとめました。
消化性潰瘍の症状
|
|
| |
胃潰瘍 |
十二指腸潰瘍 |
| 代表的な症状 |
みぞおちの痛み |
| その他の症状 |
胸焼け・ゲップ・吐き気・嘔吐・食欲不振・貧血 |
| 潰瘍から出血があるときの症状 |
吐血・下血(黒色便)・ショック・立ちくらみ・
慢性貧血による易疲労感など |
| 痛みが起こる時 |
食後すぐ |
空腹時・夜間
(食後に軽減) |
| 好発年齢 |
30歳代以降 |
20〜40歳代 |
|
実際に消化性潰瘍と診断された人の中には、「痛むけどそのうち治る」と放置していてだんだんひどくなり、吐いたり血便が出たりして初めて受診したという人も少なくないようです。
|
| 【 胃の健康チェック 】 |
|
あなたは、いくつの項目に該当しますか?
胸やけがする
|
ゲップがよく出る
|
空腹時に胃が痛い
|
胃がもたれる
|
おなかが張った感じがする
|
息が臭い
|
食欲がない
|
タバコをすう
|
お酒をよく飲む
|
食べ過ぎることが多い
|
ストレスが多い
|
睡眠不足である
|
当てはまる項目の数が多いほど、胃が悲鳴をあげています。胃からのシグナルを見逃さないよう、医療機関への早めの受診をおすすめします。
|
消化性潰瘍の発生リスクを高める原因・リスクファクター(危険因子)としては以下のものが考えられています。
|
【 生活習慣 】
|
【 タバコ 】
胃や十二指腸の粘膜の血管を収縮させるため、血液の流れが悪くなり粘膜が傷つきやすくなります。
|
【 暴飲暴食 】
強いアルコールや度を超した食べ過ぎは、胃の粘膜を傷つけます。
|
| 【 薬 】 |
一般に、解熱・鎮痛(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)に分類される薬は“胃を荒らす”といわれています。NSAIDsは、胃粘膜を保護する作用をもつPGE2 (プロスタグランジンE2)という生理活性物質の生成を抑制するため、連用すると胃潰瘍ができやすくなります。NSAIDsが原因となる潰瘍は「NSAIDs潰瘍」といいます。他には、副腎皮質ホルモン・抗生物質などがあります。
|
【 ストレス 】
|
入学・就職など新しい状況への適応、離婚・死別など支えとなるものの喪失、入院など身体的健康の喪失、失業・左遷など自尊心の喪失など、心理的・社会的なストレスからうまく気分転換できない場合、ストレスを知らず知らずのうちにため込むことになり、消化性潰瘍になりやすいようです。子供であっても、受験などのストレスで消化性潰瘍になることがあります。
|
【 胃酸 】
|
ストレスなどによる胃酸の出過ぎ(胃酸過多)は、胃・十二指腸の粘膜を傷つけると考えられています。
|
|
【 ピロリ菌 】
|
|
ピロリ菌が胃の中にいる人は、いない人よりも消化性潰瘍になりやすいといわれ、最近特に注目されています。
|
|
ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、1983年にオーストラリアのWarren、Marshallらによって初めて分離・培養されました。さらにMarshallは、自ら培養したピロリ菌を飲んで急性胃炎を起こし、ピロリ菌が胃炎の発症にかかわっていることを証明しました。
ピロリ菌は、4ミクロン(4/1000mm)の大きさで、右巻きに2〜3回ねじれた螺旋状のグラム陰性桿菌(ぐらむいんせいかんきん)です。胃の出口にあたる幽門(ゆうもん)付近の粘膜表面に住みついています。4〜8本の鞭毛(べんもう)を持ち、これをスクリューのように1秒間に約100回転させ、螺旋状の体をねじらせながら移動します。ピロリ菌の名前の由来は、螺旋状を意味するギリシャ語の「Helico」と、細菌(Bacteria)を意味する「Bacter」、そして幽門を意味する「Pylorus」です。
|
ピロリ菌が活動するために最適な酸性度はpH6〜7で、pH4以下では生きられません。しかし実際には、pH1〜2という強酸性の胃の中に好んで住みついています。これは、ピロリ菌がウレアーゼという尿素を分解する酵素を持ち、胃の中の尿素からアルカリ性であるアンモニアを作り出すことにより、胃酸を中和して中性に近い環境を作り出すことができるからです。このようにして、胃の中で強酸性から身を守り、胃酸の少ない粘液の中にもぐりこんで生きていられるのです。 |
 |
ピロリ菌が粘膜障害を起こすメカニズムとして、以下に示したようないろいろな説があります。今日では、これらの複数のメカニズムがからんでいると考えられていますが、まだはっきりとしたことは判っていません。
| 1. |
ピロリ菌のつくり出すアンモニアが、直接粘膜を傷つける。
|
| 2. |
ピロリ菌そのものが、粘液細胞の粘液を含む部分を壊してしまう。
|
| 3. |
ピロリ菌に感染すると胃の表面で炎症反応が起こり、その結果発生した活性酸素が粘膜を破壊する。
|
| 4. |
炎症反応で生じた活性酸素が、ピロリ菌の産生したアンモニアに働きかけて胃粘膜を強く傷つける物質に変化させる。
|
|
|
では、ピロリ菌はどうやって人に感染するのでしょうか?
|
|
【 感染経路 】
|
感染経路にはいくつかの説がありますが、幼児期にピロリ菌を保持する親から経口感染する説が有力視されています。
| ● |
親が噛み砕いたものを子へ口移しで食べさせることで
|
| ● |
飲料水を介して
|
| ● |
動物(ハエ・ゴキブリ・ネコなど)を介して
|
| ● |
内視鏡を介して (洗浄・消毒が不十分な場合)
|
|
|
【 感染率 】
|
ピロリ菌の感染率は国や年齢によってずいぶん異なります。日本人はピロリ菌の感染率が高いといわれています。特に中高年の感染率が高く、このことは戦後の衛生状態の悪さと関係していると考えられています。
発展途上国 > 先進国 (上水道の普及率と関係)
先進国の中で日本における感染率が高い
年齢別=40歳以上の6〜8割が感染 (幼児期の衛生状態などの環境と関係)
|
わたしたち日本人のピロリ菌感染率は高いといわれていますが、感染しているからといって必ずしも消化性潰瘍になるわけではありません。実際にはピロリ菌感染者の約2〜3%が発症する程度にとどまっているようです。しかし、ピロリ菌感染者が消化性潰瘍になる危険度は非常に高いため、感染者が胃・十二指腸潰瘍と診断された場合は、その治療と再発予防のためにピロリ菌の除菌が必要となります。
それでは、ピロリ菌の診断方法と除菌治療について話を進めていきましょう。
|
ピロリ菌感染診断と除菌治療の流れを以下に示しました。
現在日本で行われている検査は以下の6種類です。行われる検査は施設によって違います。
検査は、内視鏡検査が必要な方法と必要でない方法との2つに分けられます。「便中H.pylori抗原測定」を除く5つの検査が保険適用とされています。これらの感染診断は、除菌後の判定でも同様に行われます。それぞれの検査の精度には大きな差は見られませんが、それぞれの診断法の利点や欠点を理解した上で、診断法を選択することが望ましいとされています。
ピロリ菌の感染診断法
|
|
検査法 |
特徴 |
内
視
鏡
検
査
が
必
要
な
方
法
|
迅速ウレアーゼ試験 |
ピロリ菌が尿素から産生したアンモニアが胃の組織に含まれているかどうかを調べる方法。 |
| 利点 |
迅速、簡便な判定。 |
| 欠点 |
検査結果の保存は不可。 |
| 培養法 |
ピロリ菌の唯一の直接的確認法。
組織粘膜を培養してピロリ菌の有無を調べる。 |
| 利点 |
抗菌薬に対する感受性検査が可能。
菌株の特定が可能。 |
| 欠点 |
判定までに時間がかかる。
施設間で精度が異なる。 |
| 鏡検法 |
採取した組織を染色し、顕微鏡でピロリ菌の菌体を確認する方法。 |
| 利点 |
検査結果の保存性が高い。
同時に組織診断が可能。 |
| 欠点 |
他のらせん菌との鑑別が困難な場合がある。 |
内
視
鏡
検
査
を
し
な
い
方
法
|
尿素呼気試験 |
あらかじめ標識した尿素を服用し、ピロリ菌のもつウレアーゼ活性により産生された標識二酸化炭素が呼気に含まれるかどうかを調べる方法。
胃全体のピロリ菌の量を反映するため精度が高く、除菌判定に用いられることが望ましい。 |
| 利点 |
簡便で感度、特異度ともに高い。
小児の検査が可能。 |
| 欠点 |
治療薬がウレアーゼ阻害活性を持つため、治療薬服用中あるいは服用直後の除菌判定では、偽陰性化することがある。 |
| 抗H.pylori抗体測定 |
ピロリ菌感染により体内で産生された抗H. pylori抗体を測定する方法。 |
| 利点 |
血清、全血、尿、唾液を用いて判定が可能。 |
| 欠点 |
小児では精度が低下する。
除菌後の抗体減少には時間がかかるため、除菌直後の判定には適さない。 |
便中H.pylori抗原測定
(保険適用外) |
糞便中に排出されるピロリ菌の抗原を直接測定する方法。 |
| 利点 |
簡便で、感度、特異度ともに高い。 |
| 欠点 |
偽陰性が起こる可能性があるため注意が必要。 |
|
日本ヘリコバクター学会
「H. pylori感染の診断と治療ガイドライン2003年改訂版」より
2000年11月、ピロリ菌陽性と判定された消化性潰瘍を対象としたピロリ菌の除菌療法が健康保険認可されました。
ピロリ菌の除菌成功率は、個人差はありますが80%以上といわれています。除菌により消化性潰瘍の原因を根本から絶つだけでなく、消化性潰瘍の再発を抑えることができます。一方で、ピロリ菌の除菌に成功しても、1年間で10%程度の人に消化性潰瘍が再発するという報告もあります。再発を繰り返す場合には、維持療法として胃酸分泌を抑制する薬を継続して飲む必要があります。 |
現在行われている除菌療法は、胃酸の分泌を強力に抑えるプロトンポンプ阻害剤と2種類の抗生物質の合計3剤を服用する「3剤併用療法」といわれる方法です。日本ヘリコバクター学会により定められたガイドラインの中で、使用する薬の種類と用量が決められています。中には、1日の服用量が1枚にパックされた製剤もあり、「薬の飲み方がむずかしい」・「薬を飲み忘れる」などの問題点が改善されました。具体的には、以下を参照してください。
H. pylori 除菌治療の保険適用薬
| |
プロトンポンプ阻害剤 |
抗生物質 |
療法1
*1 |
ランソプラゾール
30mg |
アモキシシリン
750mg |
クラリスロマイシン
200 or 400mg |
| 療法2 |
オメプラゾール
20mg |
アモキシシリン
750mg |
クラリスロマイシン
400mg |
療法3
*2 |
ラベプラゾールナトリウム
10mg |
アモキシシリン
750mg |
クラリスロマイシン
200 or 400mg |
用量は1回分。1日2回 朝・夕食後 7日間連続して服用する。
*1 療法1の1日服用量が1シートにパックされた製剤がある。
*2 療法3は平成19年1月に保険適用追加された。
プロトンポンプ阻害剤
胃酸は、胃粘膜にあるプロトンポンプから分泌されます。プロトンポンプ阻害剤は、胃粘膜にあるプロトンポンプの活性を阻害することにより、胃酸の分泌を強力に抑えます。同時に、胃酸のために抗生物質が働かなくなってしまうのを防ぎます。
抗生物質
ピロリ菌を除去する薬です。ペニシリン系のアモキシシリンとマクロライド系のクラリスロマイシンが保険適用薬となっています。
注意:抗生物質を飲んで湿疹・発熱・呼吸困難などの症状を起こしたことのある方は、除菌治療は行えない場合があります。また、高齢者や重症の肝・腎疾患を合併している方も、除菌治療は行えない可能性がありますので、主治医とよくご相談下さい。
今のところ、上記療法1〜3による除菌の成功率に差はないといわれています。 この除菌治療で最も大切なことは、決められた用法できちんと薬を飲むことです。途中で勝手に服用をやめると、ピロリ菌が薬に対して耐性をもってしまい、次に除菌しようと思っても薬が効かなくなるおそれがあります。 |
除菌治療における副作用の多くは、軽症かつ一過性のものであり、その症状は除菌中から除菌終了にかけて消失することが多いといわれています。
下痢・軟便 : 約10〜30%
|
主にアモキシシリンによるものです。普段から軟便傾向の方や、過去に抗生物質を服用して下痢になったことがある方は、整腸剤を併用すると予防効果があるといわれています。ひどい下痢や血性下痢となった場合は、自己判断せずに主治医へ連絡し、そのまま治療を続けるかどうかの指示を受けましょう。
|
味覚異常・舌炎・口内炎 : 約5〜15%
|
主にクラリスロマイシンによるものです。味覚異常の症状として、口が苦い・食べ物の味が変わったなどがあります。味覚異常・舌炎・口内炎ともに身体には影響がないため、服用を続けて大丈夫です。
|
皮膚 : 約2〜5%
|
主にアモキシシリンに対するアレルギー反応によるものです。かゆみ・発疹などの症状があらわれる場合があります。
|
その他の副作用
|
腹痛・放屁(おなら)・腹鳴(グル音:おなかがゴロゴロ鳴ること)・便秘・頭痛・頭重感・肝機能障害・めまいなど。 |
|
ピロリ菌除菌療法が薬剤アレルギーなどの理由で行えない場合は、“抗ピロリ菌作用”を持つ食品を用いてピロリ菌を抑える試みがなされています。しかし、まだ検討段階であるため、いずれも確実な除菌方法ではないといえます。
【 抗ピロリ菌作用を持つと考えられている食品 】
LG21(ヨーグルト)・ラクトフェリン・ココア・シナモン・緑茶カテキン・ニンニク・マヌカハニー(ニュージーランドの蜂蜜)・クランベリージュース・ブロッコリースプラウト(ブロッコリーの新芽)・梅肉エキスなど |
消化性潰瘍とピロリ菌について、おわかりいただけましたでしょうか?
消化性潰瘍に大きく関与しているピロリ菌は、薬を1週間服用することで除菌できるようになりました。自覚症状がなくても消化性潰瘍が見つかることもありますが、少しでも気になる症状があれば、早目に内科や消化器内科を受診しましょう。
そして何よりも、普段から運動をしたり趣味を楽しんだりして、ストレスをためずに楽しく時間を過ごしましょう。
|
 |
| アルバ薬局 |
|
三宮店 |
薬剤師
管理薬剤師
|
|
近藤 真理
齋藤 明子
|
|
|
|